という宝石箱から見つかるK-POPの新たなディーバ。韓国歌謡の歴史において、ディーバたちが持つ存在感は非常に特別だ。60年代後半にサイケデリック・ロックとソウルの新世界を切り拓いたシン・ジュンヒョン楽団の代表的歌手であったキム・チュジャは、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)やベティ・デイヴィス(Betty Davis)のように急進的で官能的なカリスマ性を披露し、80年代のニューウェーブK-Pop時代を牽引したキム・ワンソンは、ニューウェーブ・ロックとシンスポップを主流に押し上げ、それまでに見られなかったダンスミュージックの時代を切り拓いた張本人であった。90年代にさらにトレンドなビジュアルと感覚的な音楽を披露したオム・ジョンファや、ヒップホップ、R&Bの正統なサウンドを主流のK-Popに持ち込んだイ・ヒョリ、そしてグローバルポップスターへの飛躍を見せK-Popのパラダイムを変えたボアの登場は、一つの時代の転換点を作り出した一大事件として記憶されるべきである。
今日のK-Popシーンでその系譜を継ぐディーバは誰だろうか。ここ数年、グループ単位で再編されたアイドル市場において、稀に見る爆発的なエネルギーで大衆を虜にするパフォーマーとして、また魅惑的なボイスを持つヴォーカリストとして、ソロ歌手としての地位を固め、その潜在能力をキャリアで証明してきたのがチョンハである。アイドルからR&B、ヒップホップアーティスト、そして88risingのRich Brianに至るまで、多様なシーンとジャンルに属するアーティストたちとのコラボレーションを通じて境界を広げ進化してきたチョンハが披露する初のフルアルバムは、より大胆な方向性と豊かなディテールの音楽的挑戦を見せている。ハウス、ラテン、アフロビーツ、そしてベースを横断する多彩なコンテンポラリー・ポップ、ダンスミュージックのスタイルを網羅した21曲のフルアルバムは、Noble, Savage, Unknown, Pleasuresというテーマを込めたコンセプチュアルなトラックを起点に、4つのチャプターに分かれている。各チャプターが象徴する相反し、かつ強烈なコンセプトの対比は、ジャンルを横断しながら複雑で多様な感情の叙事詩を経て、自身の世界を完成させていくチョンハのアーティストとしての世界観を構成している。
SIDE A {NOBLE}
A1 Noble
A2 Bicycle (Performance Ver.)
強烈なファズギターの導入部と共に展開されるR&Bポップ・トラップサウンドと共に、ペダルを踏んで前に進む瞬間のときめきと、胸いっぱいのエネルギーを表現した曲。「Get out of my way-ah! / 見せてあげる how I like it」へと続くコーラスパートの直線的な歌詞と迷いのないアティチュードは、独立したエネルギッシュなソロアーティストとしての自信と、誰にも代替できない存在感を刻みつける。
A3 Masquerade
ブラスセクションのダイナミックな展開、ミュートギターの緊張感とラチェットスタイルの感覚的なビートが加わり、豊かなサウンドを作り出している。「リズムを呼び覚まし体を動かす」仮面舞踏会の緊張したときめきが、繊細で感覚的なボーカルと共に目の前に広がるかのようだ。ラテンポップスタイルの展開とR&Bムードが衝突し、激しくも秘密めいたパーティーのムードを作り出している。
A4 Flying on Faith
エッジの効いたポップサウンドと明快な進行の豊かなプロダクションが、チョンハのボーカルが最も輝く瞬間を作り出す。抑制されたテンションのミュートギターで始まり、上昇していくビルドアップ、激しく爆発するコーラスを経て、切ないピアノの旋律と共に締めくくられるダイナミックな構造の中でも、プロダクションに埋もれることなく、むしろ数多くの楽器をリードしていくようなチョンハのカリスマ溢れるボーカルが印象的だ。
A5 Luce Sicut Stellae
トロピカルサウンドにミディアム・アフロビーツ、清涼感のあるパッドサウンドとボイスが加わって作り出されるムードは、甘くベルベットのように柔らかい。
「大切な瞬間を逃さないでほしい」と願う歌詞は、日常に疲れ、そこから逃れたいと願うリスナーを、星明かりに満ちた異国的な都市の空へと連れて行く。曲タイトルの “Luce Sicut Stellae” は、「星のように明るく輝け」という意味のラテン語である。
SIDE B {SAVAGE}
B1 Savage
B2 Stay Tonight
神秘的な夜のムードを伝えるハープ・アルペジオサウンドで始まるこの曲は、上昇するエネルギーを秘めたダンスチューン。低く響くピアノコードと大きな空間感で開かれるビートと共に、絶頂へと向かうハイトーンのボーカルに続き、太いベースへと転換。その後に登場するソウルフルなエレクトリックピアノのライン、歪んだボイススニペットへと続く後奏のブリッジは、変化に富んだダンスチューンの多彩な構成による緊張感と優雅さの間で、自由にその形態を変化させる。
B3 Dream of You (with R3HAB)
世界的なプロデューサーR3HABとのコラボレーションで話題を集めたシングル。厚みのあるハウスビートに乗せられたストリングス、ブラス、ボコーダーの組み合わせは、シンプルかつ明快で中毒性のあるメロディーラインへと統合され、直線的なダンスミュージックの強弱と緩急を突き抜けてくるチョンハのボーカルが、中低音と高音パートを行き来しながら曲のユニークさを完成させている。
B4 짜증 나게 만들어 (イライラさせる)
現在、最も感覚的なK-Popを作り出しているSUMINと、多様なアーティストとの協業でソウルフルかつダイナミックなプロダクションを作り出すSlomが参加した。堅実なベースラインとパーカッションレイヤーに乗せられたヴィンテージ・エレクトリックキーボードの煌びやかなサウンドと、単刀直入に感情を放出するチョンハの表現力は、90年代のソウルフル・ハウスディーバたちを彷彿とさせる。
B5 Chill해 (Chillして)
厚みのあるベースリードと共に、洗練されたスローダウン・ニューオーリンズバウンスビートの興奮が加わり、それらが相乗効果を生み出すことで、この曲が比較的低速なダンスチューンであるという事実を忘れさせる。多くの要素がなくとも、リードボーカルが牽引する中毒的なパターンと、ユニゾンで積み上げられたコーラスパートの力は、自然で心地よい雰囲気を作り出している。自分の思い通りに、他人の目を気にせず、自ら未来の希望と楽しみを塗り替えていこうというメッセージは、非常にチョンハ「らしい」と言わざるを得ない。
SIDE C {UNKNOWN}
C1 Unknown
C2 PLAY (Feat. CHANGMO)
レゲトン、デムボウリズムをベースにしたラテンポップサウンドに加わるブラスパートとシンセサイザーの太い音色は、息が詰まるほどに展開し、そこにさらに強烈なインパクトを与えるのが、どのようなリズムであっても自身のラップをリズム楽器のように変奏させるCHANGMOのパートである。上昇し続ける相乗効果で押し寄せるパーティチューンでありながら、飽きることがないのは、充実した楽器陣を圧倒して放出させ、時には微細な強弱を調節してディテールなニュアンスを伝えるボーカルの表現力によるものだろう。
C3 Demente (Feat. Guaynaa)
ビルボード誌が2020年に注目すべきアーティストに選出したGuaynaa (Jean Carlos Santiago) とのコラボレーションで完成した正統派ラテンポップナンバー。ジンバブエ出身のイギリス人プロデューサーRationale、コロンビアのソングライターLaura Carvajalino Avilaが共に作り上げた、原始的で無駄のないプロダクションの上で、ジャンル的に完璧に没入するチョンハの解釈力と表現力は、グローカルサウンドの時代にふさわしいディーバとしての多才さを見せている。
C4 Lemon (Feat. Colde)
色や温度に関わらず、曲が持つムードを白い画用紙のように吸収し、自分自身のカラーで解釈することこそが、ミュージシャンとしてのチョンハが持つ独歩的な能力である。感覚的なリズムと、穏やかで軽やかに舞う愛らしいメロディーは、これまでの雰囲気とは全く異なる質感を披露している。
繊細な編曲と展開の上に、生クリームのように柔らかく乗せられたチョンハのボーカルが甘いメロディーラインで耳を捉える中、Coldeの声が重なり完成するアンサンブルは、独特な感情線を作り出しながら軽快な温度感を維持している。C5 別(びょる)はらんと (160504 + 170607)
「辛くて疲れた時に手をつないでくれた君 / 嬉しい時に一番先に笑ってくれた君 / 私の心に流れた涙を拭ってくれた君」という歌詞は、いつも辛く疲れた時に最大の力になってくれたファンへのメッセージ。叙情的なギターリフとピアノのアンサンブルは、澄んでいて淡白だ。穏やかなムードの中で聴き手との共感を導き出すボーカリストとしての表現力は、ジャンルの枠にとらわれず自身の声を表現できるアーティストとしての底力を確信させる。SIDE D {PLEASURES}
D1 Pleasures
D2 X (歩んできた道に花畑なんてなかったわ)
黒いスカート(The Black Skirts)との作業は、このアルバムでアーティストが志向する感性の拡張を確認できる部分であり、特有の清らかな空間感と、簡潔ながらも感情に深く入り込む豊かなメロディーを秘めたモダンロック、ポップナンバーである。「この場所が私を作ったんじゃない / 歩んできた道に花畑なんてなかったわ」という歌詞は、まるで孤独で困難な道を歩んできたアーティストが、過去の束縛と偏見から脱しようとする意志を象徴しているようだ。眩いほどに切ないアンサンブルの中でも、正直で決然とした声は、むしろ確信と希望の前兆を聴かせてくれる。D3 All Night Long
真夜中のラブソングを、切なくも憂いに満ちた声で、抑制された独白として表現したこの曲を通じて、ボーカリストとしての新たな一面を発見することになる。ペク・イェリン、クラウド(구름)とのコラボレーションは、すでに「From Now On」、「私たちが楽しく」のトラックで披露したことがある。鮮やかに振動して空間を呼び覚ますチョンハの声で始まる曲は、時間の流れの上に楽器が一つずつ層を成し、感情を徐々に高めていく。編曲の構成は簡潔だが、楽器の骨組みが追求するサウンドの方向性は明確で確実だ。この響きの中で共振し、曲の中心を捉えていく彼女のボーカルは、いま再び新しい領域へと拡張し、素晴らしい一歩を踏み出した。D4 正直に疲れる
R&Bバラードボーカリストとしてのチョンハが持つ才能と訴求力を存分に感じられるトラック。孤独と恋しさ、回想の心象を淡々と表現するボーカルは、より成長したアーティストとしての自我を見せている。聴き手と対話するように真摯な表現で綴られる物語は、高まりながら内面の深淵をより明るく照らす。導入部に登場する犬の声の主は、チョンハの愛犬バンビだという。D5 Comes N Goes
闇のように押し寄せる現実の悩みと悲しみ、揺らぎと見慣れない日々。しかし、季節の終わりに再び訪れた春のように、希望と到達に至るメッセージで、癒やしと幸せに至る過程を込めた歌。かすかなギターストロークとアルペジオの中で、清らかに響くボイスは鮮やかに輝く。日常の省察から始まり、不安と焦燥感を露わにする心象の中でも、希望と未来への肯定的な態度で完結する意識の流れは、まるでこのアルバムが示す叙事を凝縮した締めくくりのように聞こえる。D6 Querencia (Epilogue)
すべての物語が終わった後に登場するような生命力あふれるリズムを経て現れるヒドゥン・トラックは、自分だけの空間に入り、再び物語を始めるかのように神秘的に展開される。数年間にわたる長い旅を込めたこのアルバムの後には、どのような物語が始まるのだろうか。D7 Demente (Spanish Ver.)
文:パク・ミンジュン (DJ Soulscape)